広島地方裁判所 昭和49年(ワ)877号 判決
原告 大塚和孝
原告 大塚良昭
右原告両名法定代理人親権者父 大塚良夫
同母 大塚和子
原告両名訴訟代理人弁護士 藤堂真二
被告 株式会社八本松観光農園
右代表者代表取線役 坂谷勇
〈ほか二名〉
右訴訟代理人弁護士 小中貞夫
主文
一 原告両名の株式会社八本松観光農園に対する本件訴は却下する。
二 原告両名の有限会社広島観光農園及び株式会社みどり園に対する各請求はいずれも棄却する。
三 訴訟費用は原告両名の連帯負担とする。
事実
第一請求の趣旨
(主位的請求)
1 被告株式会社八本松観光農園は原告両名に対し、別紙記載の土地につき広島法務局西条出張所昭和四〇年五月二六日受付第一九九三号所有権移転請求権保全仮登記に基づく所有権移転(本)登記手続(原告両名の持分各1/2)をせよ。
2 被告有限会社広島観光農園および被告株式会社みどり園は、原告両名のため右本登記手続することを承諾せよ。
3 訴訟費用は被告らの負担とする。
(予備的請求)
4 被告株式会社八本松観光農園は原告両名に対し、別紙記載の土地につき広島法務局西条出張所昭和四〇年一一月一九日受付第四二七七号所有権移転請求権仮登記に基づく所有権移転(本)登記手続(原告両名の持分各1/2)をせよ。
5 被告有限会社広島観光農園および被告株式会社みどり園は、原告両名のため右本登記手続することを承諾せよ。
6 訴訟費用は被告らの負担とする。
第二請求原因
一 大阪日産自動車株式会社(以下大阪日産という。)と被告株式会社八本松観光農園(以下被告八本松農園という。)との代物弁済予約
売主大阪日産は昭和四〇年五月二二日買主株式会社中国オートセンター(以下中国オートという。)との間に、中国オートは大阪日産から中古自動車を継続的に買入れる、取引限度額を一二〇〇万円とする、弁済期後の遅延損害金を日歩八銭とするとの約定の継続的取引契約を締結した。
大阪日産は昭和四〇年五月二二日被告八本松農園との間に右契約に基く中国オートの債務につき、被告八本松農園がその所有の別紙記載の土地(以下本件土地という。)に債権元本極度額を一二〇〇万円とする根抵当権を設定する中国オートが右債務を履行しないときは、本件土地により代物弁済する旨の根抵当権設定契約並びに代物弁済予約を締結した。しかして、大阪日産は本件土地につき広島法務局西条出張所昭和四〇年五月二六日受付第一九九三号をもって昭和四〇年五月二二日代物弁済予約を原因として順位番号二番の所有権移転請求権保全仮登記(以下甲仮登記という。)を経由した。
二 大阪日産から株式会社マツダオート大阪(以下マツダオート大阪という。)への代物弁済予約上の権利の譲渡
大阪日産は昭和四〇年一〇月二日中国オートに対する当時の残債権三五〇万円をマツダオート大阪に譲渡すると共に、被告八本松農園の承諾を得て右代物弁済予約上の権利をマツダオート大阪に譲渡した。マツダオート大阪は本件土地につき広島法務局西条出張所昭和四〇年一〇月二日受付第三七〇五号をもって昭和四〇年八月一三日売買を原因として二番所有権移転請求権の移転の附記登記を経由した。
三 マツダオート大阪と被告八本松農園との代物弁済予約
売主マツダオート大阪は昭和四〇年八月一〇日買主中国オートとの間に、中国オートはマツダオート大阪から中古自動車を継続的に買入れる旨の継続的取引契約を締結した。マツダオート大阪は昭和四〇年八月一〇日被告八本松農園との間に、右契約に基く中国オートの債務につき、中国オートが債務を履行しないときは被告八本松農園がその所有の本件土地により代物弁済する旨の代物弁済予約を締結し、広島法務局西条出張所昭和四〇年一一月一九日受付第四二七七号をもって昭和四〇年八月一〇日代物弁済予約を原因として順位番号三番の所有権移転請求権仮登記(以下乙仮登記という。)を経由した。
四 マツダオート大阪から原告両名への代物弁済予約上の権利の譲渡
1 マツダオート大阪は昭和四九年八月一九日大阪日産から譲り受けた三五〇万円の債権を原告両名に譲渡すると共に被告八本松農園の承諾を得て代物弁済予約上の権利を原告両名に譲渡した。原告両名は、本件土地につき広島法務局西条出張所昭和四九年八月二六日受付第九〇六二号をもって昭和四九年八月一九日譲渡を原因として二番所有権移転請求権の移転の附記登記を経由した。
2 マツダオート大阪は昭和四九年八月一九日中国オートに対する当時の債権一八七六万〇二九三円を原告両名に六〇〇万円で譲渡すると共に被告八本松農園の承諾を得て代物弁済予約上の権利を原告両名に譲渡した。原告両名は、本件土地につき広島法務局西条出張所昭和四九年八月二八日受付第九一五四号をもって昭和四九年八月一九日譲渡を原因として三番所有権移転請求権の移転の附記登記を経由した。
五 代物弁済予約完結権の行使
中国オートはマツダオート大阪に対する前記各債務を期限に弁済しなかった。よって、(一)原告両名は、被告八本松農園に昭和四九年九月一一日送達された本件訴状によって昭和四〇年五月二二日代物弁済予約に基く完結権を行使する旨の意思表示をした。(二)原告両名は、被告八本松農園に対し昭和五〇年二月一七日の第四回口頭弁論期日において、昭和四〇年八月一〇日代物弁済予約に基く完結権を行使する旨の意思表示をした。
六 登記上の利害関係人
1 本件土地につき被告有限会社広島観光農園(以下被告広島農園という。)は、広島法務局西条出張所昭和四五年九月二二日受付第六七〇五号をもって昭和四五年九月二一日広島地方裁判所仮差押を原因として仮差押登記を経由している。
2 本件土地につき被告株式会社みどり園(以下被告みどり園という。)は、同出張所昭和四六年一一月一五日受付第八七九一号をもって昭和四六年一一月一二日売買を原因として所有権移転登記を経由している。
七 請求
前記各代物弁済予約は無清算帰属型であるので、原告両名は予約完結権の行使によって本件土地の所有権を取得した。よって、原告は、(一)被告八本松農園に対し、主位的請求として、請求の趣旨1記載の判決を求め、予備的請求として、同4記載の判決を求める。(二)被告広島農園及び被告みどり園に対し、主位的請求として、請求の趣旨2記載の判決を求め、予備的請求として、同5記載の判決を求める。
第三訴却下の申立(被告みどり園)
一 本件訴をいずれも却下する。
二 その理由は、本件訴はいずれも再訴の禁止(民事訴訟法第二三七条第二項)にふれる。すなわち、原告らの本件訴は、原告らが昭和四九年八月一九日マツダオート大阪から本件土地につき甲仮登記及び乙仮登記の原因である各代物弁済予約上の権利をそれぞれ承継取得して予約完結権を行使したとして、各本登記手続を求めるものである。しかし、マツダオート大阪は八本松農園に対し原告ら主張の代物弁済予約の完結権行使を理由として本件土地につき右各仮登記に基く各本登記手続を求める訴(広島地方裁判所昭和四一年(ワ)第一一一号土地所有権移転登記手続等請求事件)を提起し、昭和四三年九月三〇日請求認容の本案判決を受けた。そこで、八本松農園が控訴(広島高等裁判所昭和四三年(ネ)第三二七号事件)し同裁判所で審理中の昭和四五年三月一八日マツダオート大阪は八本松農園の同意を得て右訴の全部を取下げた。
しかして、民事訴訟法第二三七条第二項の「訴ヲ取下ケタル者」には、前訴原告の特定承継人を含むものであるから、同条項により原告の本件訴はいずれも不適法として却下さるべきものである。
第四請求の趣旨に対する答弁(被告ら)
一 原告両名の請求は、いずれもこれを棄却する。
二 訴訟費用は原告両名の負担とする。
第五請求原因に対する認否
(被告ら)
一 請求原因一のうち被告八本松農園が本件土地を所有していたこと、本件土地につき甲仮登記がなされていることは認めるが、その余の事実は争う。
二 同二のうち本件土地につき原告ら主張の附記登記がなされていることは認めるが、その余の事実は争う。
三 同三のうち被告八本松農園が本件土地を所有していたこと、本件土地につき乙仮登記がなされていることは認めるが、その余の事実は争う。
四 同四のうち本件土地につき原告ら主張の各附記登記がなされていることは認めるが、その余の事実は争う。
五 同五のうち原告ら主張の(一)及び(二)の各事実は認める。
六 同六の事実は認める。
七 同七の事実は争う。
(被告みどり園)
八 マツダオート大阪は被告八本松農園に対し昭和四一年二月一〇日到達の内容証明郵便で、中国オートに対し同月三日到達の内容証明郵便で、いずれも本書到達後一週間内に乙仮登記の基本債権極度額六〇〇万円の支払を催告すると共に、みぎ期間内に支払のないときは、これを条件として一〇八万円の弁済に代えて本件土地の所有権を取得する旨の意思表示をした。被告八本松農園及び中国オートは右催告期間内に弁済をしなかった。そこで、マツダオート大阪は昭和四一年二月一八日本件土地の所有権を取得した。したがって、原告らが実体上マツダオート大阪から本件土地の所有権を譲受けたとすると、原告らは被告八本松農園に対し乙仮登記の附記登記に基づく所有権移転登記手続を請求することは許されない(最判昭和四三・一・三〇民集二二・一・四四)。
したがって、被告みどり園に対し本登記手続の承諾を、求めることはできない。
第六証拠≪省略≫
理由
第一被告八本松農園に対する訴について
職権をもって調査する。
一 原告らの被告八本松農園に対する本件訴は、事実中の請求の趣旨及び原因欄に記載したとおりである。
二 ≪証拠省略≫によれば、
(一) マツダオート大阪は八本松農園に対する広島地方裁判所昭和四一年(ワ)第一一一号土地所有権移転登記手続等請求事件につき、昭和四三年六月二四日終結した口頭弁論に基いて同年九月三〇日次の判決を受けたこと、
(イ) 主位的請求 マツダオート大阪は昭和四〇年八月一三日大阪日産から本件土地に対する甲仮登記の原因である代物弁済予約上の権利を譲受け、昭和四〇年一〇月二日甲仮登記の附記登記を経由するまでの間に八本松農園の承諾を得た。昭和四一年二月一日予約完結権を行使したので同月一一日本件土地の所有権を取得したので、本件土地につき甲仮登記に基く本登記手続を求める。
判決 マツダオート大阪が大阪日産から本件土地に対する甲仮登記の原因である代物弁済予約上の権利を譲受けたものとは認められないから、主位的請求を棄却する。
(ロ) 予備的請求に対する判決 マツダオート大阪が乙仮登記の原因である代物弁済予約に基き昭和四一年二月一〇日になした条件付予約完結の意思表示により、それに付された条件の成就した昭和四一年二月一八日本件土地の所有権を取得したものであるから、八本松農園はマツダオート大阪に対し、本件土地につき乙仮登記に基く本登記手続をせよ。
(二) 八本松農園は、右判決中予備的請求を認容した部分につき控訴を提起し、主位的請求についても移審したこと、マツダオート大阪が控訴審係属中である昭和四五年三月一八日本位的請求及び予備的請求の訴を取下げたこと
が認められる。
三 以上の事実によれば、原告らはマツダオート大阪から昭和四九年八月一九日本件土地についての甲仮登記及び乙仮登記の原因である代物弁済予約上の権利を譲り受け、予約完結権の行使によって本件土地の所有権を取得したとして、被告八本松農園に対し、本件土地につき甲仮登記に基く本登記手続を主位的請求とし、乙仮登記に基く本登記手続を予備的請求として求めるものであるから前訴(当庁昭和四一年(ワ)第一一一号事件)原告マツダオート大阪の特定承継人というべきであり、かつ、前訴と本訴との訴訟物は同一と認められる。しかして、民事訴訟法第二三七条第二項にいう「訴ヲ取下ケタル者」には前訴口頭弁論終結後の特定承継人をも含むものと解するのが相当である。したがって、原告らは民事訴訟法第二三七条第二項の規定により被告八本松農園に対し本訴各請求を提起することが得ないものというべきである。よって、原告らの八本松農園に対する本件訴は不適法として却下する。
第二被告広島農園、同みどり園に対する請求について
一 ≪証拠省略≫によれば、売主大阪日産は昭和四〇年五月二二日買主中国オートとの間に、取引極度額一二〇〇万円、取引の終期の定めなく、大阪日産において何時でも取引を終了させ得る旨の約定の継続的自動車販売契約を締結し、被告八本松農園は昭和四〇年五月二二日右取引により中国オートの負担する債務につき、本件土地について根抵当権を設定すると共に期限に債務の弁済をしないときは、被告八本松農園において本件土地の所有権を大阪日産に移転する旨の代物弁済の予約をしたことが認められる。しかして、大阪日産が本件土地につき甲仮登記を経由したことは当事者間に争いがない。
二 原告らは、大阪日産が昭和四〇年一〇月二日マツダオート大阪に対し、前項の大阪日産の被告八本松農園に対する代物弁済予約上の権利を譲渡したと主張するけれども、これを認めるに足りる証拠はない〔なお≪証拠省略≫参照〕。したがって、マツダオート大阪が大阪日産から原告ら主張の被告八本松農園に対する代物弁済予約上の権利を譲受けていないものというべきであるから、原告らがマツダオート大阪から右代物弁済予約上の権利を譲受けるいわれはない。よって、原告らがマツダオート大阪から右代物弁済予約上の権利を譲受けたことを前提とする甲仮登記に基く本登記手続を求める原告らの主位的請求は、その他の点について判断するまでもなく理由がないので棄却する(仮りに右認定に誤りがあるとしても、後記四記載の理由によっても失当であるから、結論に変りはない。)。
三 ≪証拠省略≫によれば、売主マツダオート大阪は昭和四〇年八月一〇日ころ買主中国オート及び担保提供者被告八本松農園との間に、本件土地を従来よりなされている右売主、買主間の取引にかかるマツダオート大阪の債権の満足に供すべく、中国オートが右取引にかかる債務の弁済を怠ったときは、被告八本松農園において、債務の弁済に代えてマツダオート大阪が本件土地の所有権を取得し得る旨の代物弁済の予約をしたことが認められる。しかして、マツダオート大阪が本件土地につき乙仮登記を経由したことは当事者間に争がない。
四 原告らは昭和四九年八月一九日マツダオート大阪から、(イ)マツダオート大阪の中国オートに対する債権三五〇万円を譲受けると共に甲仮登記の原因である被告八本松農園に対する代物弁済予約上の権利、(ロ)マツダオート大阪の中国オートに対する一八七六万〇二九三円の債権を六〇〇万円で譲受けると共に乙仮登記の原因である被告八本松農園に対する代物弁済予約上の権利を譲受けたと主張する。しかし右主張事実を認めるに足りる証拠はない。かえって、≪証拠省略≫によれば、売主三上小一郎は昭和四八年一二月一九日買主原告らとの間に本件土地代金九〇〇万円、右土地の引渡及び所有権移転登記手続は昭和四九年八月三一日までに行うとの約定で本件土地を売渡す旨の売買契約を締結し、原告らから右代金の内金として昭和四八年一二月二一日二八〇万円、同月二八日三〇〇万円を受取った外、同月一九日一〇〇万円を中国オートのマツダオート大阪に対する債務弁済にあてる目的で受取ったこと、〔さきに中国オートが債務の代物弁済として広島市牛田旭二丁目一〇八番二六山林六六一m2の所有権をマツダオート大阪に移転したが、右土地の所在が不明であったので、三上小一郎(中国オート代表取締役)は昭和四八年一二月二一日マツダオート大阪から右土地の所有権を受戻し、代わりに四〇〇万円をマツダオート大阪に弁済したこと、更に三上小一郎は昭和四九年一月二八日マツダオート大阪に対し、中国オートのマツダオート大阪に対する債務の弁済として二〇〇万円を支払い、広島県賀茂郡八本松町大字原一〇七六〇番一〇一山林九九二三m2についての所有権移転請求権仮登記等の抹消登記にかえ、右仮登記の譲渡を受けたこと〕が認められる。したがって、右事実によれば、本件土地について原告らは三上小一郎と契約をしたものであって、マツダオート大阪と契約をしたものではない。≪証拠判断省略≫
もっとも、本件土地につき、甲仮登記及び乙仮登記に原告らのための各附記登記がなされていることは当事者間に争がない。しかして、≪証拠省略≫によれば、右各附記登記はマツダオート大阪の当時の管理総括課長五十嵐完が昭和四九年八月ころ米沢勇を介して原告らに交付した委任状によってなされたことが認められる。しかし、≪証拠省略≫によれば、マツダオート大阪代理人藤野季雄と被告みどり園代理人小中貞夫との間に、昭和四八年二月二三日マツダオート大阪は本件土地の所有者である被告みどり園のため本件土地についての甲仮登記及びその附記登記並びに乙仮登記を抹消する、被告みどり園はマツダオート大阪に対し右対価として一〇〇万円を支払うとの約束を結び、被告みどり園は昭和四八年二月二七日マツダオート大阪に一〇〇万円を支払い、マツダオート大阪は昭和四九年七月二日ころ被告みどり園に対し右各登記抹消登記手続に要する書類を送付したこと、マツダオート大阪は昭和四九年一月三〇日中国オートに対する残債権全部を放棄したことが認められる。右事実に≪証拠省略≫を合せると、五十嵐完が右委任状を誤って原告らに交付したことが認められる。したがって、甲仮登記及び乙仮登記に原告らのための各附記登記がなされている事実があるからといって、原告らがマツダオート大阪から代物弁済予約上の権利を譲受けたものとは認められない(附加するに、以上の事実によれば右各附記登記は登記に記載された代物弁済予約上の権利の譲渡を伴わないものであるから無効である。)。
そうとすれば、マツダオート大阪から甲仮登記及び乙仮登記の原因である代物弁済予約上の権利を譲受けたことを前提とする原告らの被告広島農園及び同みどり園に対する主位的請求及び予備的請求は、その他の点について判断するまでもなく理由がないから、いずれも棄却する。
五 訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条、第九三条第一項但書を適用して主文のとおり判決する。
(裁判官 竹田國雄)
〈以下省略〉